サッカーおすすめ本 その2『エコロジカルアプローチ』

おすすめ本
ツイックラー
ツイックラー

サッカー・サポート・センターのツイックラーです。今回はサッカー指導者におすすめ本の紹介第2弾です。

サッカーを上手くなるために、上手くさせるためにパス、ドリブル、シュートの練習を1日に何十回と繰り返ししていると思います。しかし試合になると上手くいかない、教えたスキルが発揮できずに同じ状況が続いてしまうことがないでしょうか?

ツイックラーもなかなか教えたスキルが発揮できていない状況があり、どういう練習をしたら効果的にスキルを習得できるか試行錯誤を続けていました。モウリーニョが「サッカーはサッカーでしか上手くならない」と言っていた通りなるべく練習が試合に近づいた形で行う様に設定をしていましたが、うまく落とし込めたこともあればそうでもないこともありたまたま上手くいったのかなぁと半信半疑でした。

そこで出会ったのが今回紹介する「エコロジカル・アプローチ」という本です。X(旧ツイッター)で話題に上がり各雑誌で取り上げられていたので気になって手に取りました。実際に拝読したところとても興味深く、目からうろこの内容でツイックラーの悩みを解決し、すぐに練習メニューに取り込みました。コートサイズやゴール方式、使用する道具などの制約を操作することで人が制約された環境に適応し運動を学習(スキルを習得)していく手法でサッカーだけでなくあらゆるスポーツや仕事でのスキル習得にも応用できる理論です。学術的な内容なので専門用語も多く理解するのに時間が掛かりますが、わかりやすい例題や今までの指導方法との対比、研究結果などで分かりやすく説明がされています。今まで行われていた指導方法を否定するような少し偏った部分もありますが、理論としては納得することができるのでサッカー関係者ではなくても、あらゆる方に読んでもらいたい一冊です。

おすすめポイント
  • 今までの練習方法に行き詰っている
  • 新しい指導方法の知識を増やしたい
  • 練習の組み立て方法を知りたい
  • あらゆるスポーツ、仕事のスキル習得に役立てる

本の紹介

【著者プロフィール】

  • 植田 文也(1985年 北海道出身)
  • 早稲田大学スポーツ科学研究科博士課程
    ポルト大学スポーツ科学部修士課程
    FCガレオ玉島サッカーコーチ
    南葛SCアカデミースキル習得アドバイザー
    スポーツ科学博士
  • 早稲田大学スポーツ科学研究科博士課程、ポルト大学スポーツ科学部修士課程にてエコロジカル・ダイナミクス・アプローチ、制約主導アプローチ、非線形ペダゴジー、ディファレンシャル・ラーニングなどの運動学習理論を学ぶ。

選んだきっかけ

エコロジカル・アプローチは教えないスキル ビジャレアルに学ぶ7つの人材育成術と同様にX(旧ツイッター)で話題に上がっていて、またサッカー雑誌に特集が組まれていました。ピリオダイゼーションやポジショナルプレーなど指導者は新しい考え方や言葉に敏感でいないといけません。「学ぶことをやめたら、教えることをやめなければない」ロジェ・ルメールという元フランス代表の監督のこした言葉があるように学びを続けていかないと、取り残されていきます。特にSNSが発達した現代では海外の情報もたくさん入ってくるので学ぶことがたくさんあります。その1つが『エコロジカル・アプローチ』です。

ツイックラー
ツイックラー

指導方法に停滞感を感じていたところに出会いました。

エコロジカルアプローチと聞いてもあまりサッカーとはあまりにもかけ離れたな言葉なので、最初は何についてのことか全く想像できていませんでした。しかし逆にその言葉が妙に引っかかり本を手に取り、読んでみたところとても興味深く、また科学的なアプローチなので説得力があり新しい発見がたくさんありました。

注目ポイント

エコロジカル・アプローチとは運動学習・スキル習得理論の1つです。人と環境の相互作用の中にスキルが存在するという考え方でスキルとは日常動作から専門動作まで運動課題をクリアするための環境への動作適用を指しています。そのエコロジカル・アプローチという運動学習・スキル習得理論を具体的なコーチングメッソドに還元する手法として制約主導アプローチがあり、練習環境の制約をデザインすることによって運動学習を主導していきます。

このようにエコロジカル・アプローチという理論の説明と実践方法を解説しているのですが、やはり専門用語も多々あり理解するのに少し時間が掛かります。しかし具体的な例を挙げながら、また既存のトレーニング手法(伝統的アプローチ)と比較しながら解りやすく構成されています。その中でツイックラーが気になる用語や押さえておきたいポイントをいくつか挙げてみました。

伝統的アプローチ

人の運動を分析するときに、脳がどのように認知し、判断し、体に指令を出すかというプロセスに着目します。運動する主体は人なので人の運動を分析するときは人そのものを主要な分析対象としているわけです。

制約主導アプローチ

制約主導アプローチに基づく指導においてコーチが意識すべきプリンシプル(原理・原則)は以下の五つです。
①代表性 ②タスク単純化 ④機能的バリアビリティ ④制約操作 ⑤注意のフォーカス

認知⇒判断⇒実行vs知覚=環境カップリング

「認知⇒判断⇒実行」という単方向の流れを想定するとそれぞれを分解してトレーニングできると至りやすい。
「知覚=環境カップリング」という双方向の流れを想定するとそれぞれ分解したトレーニングの効果は疑わしい。

どちらの指導が効果的か?言語vs環境(アフォーダンス)

エコロジカル・アプローチではコーチによる言語的な指導よりも環境(制約)による指導の方が運動に与える影響力は強く、効果的である

スキルは教えられるのか

エコロジカル・アプローチのコーチ像は運動課題の解決法・答えを教えれる存在ではありません。運動課題を設定する存在です。

バリアビリティとスキル習得

パフォーマンスの結果が安定するのは獲得した豊富な動作パターンを柔軟に使い分けているから。動作の安定性と変動制はどちらも重要だ。

早期専門化の弊害

長時間の練習の弊害を指摘する研究もあり、様々な研究結果からいえるのは、1万時間の練習をトップアスリートになる為の法則とする根拠にするには乏しいということです。早期専門化への疑問も否めなません。

実際にトレーニングに取り入れたこと

学術的に研究された結果という裏付けがあるので本書を読んですぐに取り入れようと思いました。しかし、制約主導アプローチは一朝一夕でできるものではなく本当の意味で理解し学習環境を最初からデザインすることは大変難しい作業です。その為、まずは比較的簡単に取り入れることができるものから始めてみました。

ツイックラー
ツイックラー

まずは取り入れやすいものから始めて、経験値を積んでいくことが大事かと思います。

ディファレンシャル・ラーニング

室内トレーニングだったり、少人数の場合など行えるトレーニングに限りがある場合、スキルドリルのトレーニングをすることがあります。スキルドリルを行う時はディファレンシャル・ラーニングを意識して行います。ディファレンシャル・ラーニングは①スキル項目を規定する+繰り返さない、②身体制約の2項目を取り入れています。

①スキル項目の規定+繰り返さない

スキル項目の規定とは右足だけでドリブルやアウトサイドを使ってパスなどパスやドリブルなど使えるスキルを制約することです。そして基本的には繰り返さない、繰り返すとしても2回から3回ぐらいで違うスキルの制約を掛けていきます。

②身体制約

繰り返しをせずどんどん異なるスキル項目の規定をしていくには限界があります。そこで身体制約を取り入れていきます。身体制約とは右手を上げながら、片眼をつむる、つま先立ちなどスキル項目を規定しながら身体の使い方に制約掛けて行うことです。

今までのスキルドリルのトレーニングに限界を感じていたところこのエコロジカル・アプローチの本を読んで身体制約を掛けることで効果的にスキル習得(実戦で使用できる)できることを知り、取り入れました。手を上げてドリブルするだけで、スムーズにできていたジグザグドリブルが滞るようになったり、スピードが上がらなかったりと苦戦していました。試合中のドリブルはチャージを受けながら、ディフェンスを背負いながらなど身体制約を受けながらドリブルしているので理にかなっていると実感しています。

既存のトレーニングの制約主導化

1日のトレーニングを考える際はまず試合の場面を切り取ったオーガナイズのトレーニングを考えます。(代表性)何回か繰り返していきそこから制約を加えたり、バリアビリティ(変動制)を加えていきます。最後はスモールサイドゲームなどタスク単純化していきます。

下記に制約主導化したトレーニング例を2つあげています。

例1:パス&コントロールのトレーニング
  • ゴール前でのボールコントロールからのシュート(代表性)
  • ボールコントロールの方法(タッチ制限や止める足など)やパス(足元やスルーパスなど)、スタートポジションを変えるなど変化を加える(バリアビリティ)
  • 試合で発揮できるようにディフェンスをつけてスモールサイドゲームをする(タスク単純化)
  • スキルが発揮できやすい様にディフェンスのスタート位置を変える(制約操作)
例2:スモールサイドゲームの制約操作

まとめ

  • エコロジカルアプローチは運動学習・スキル習得理論の1つ
  • 制約主導アプローチはエコロジカルアプローチという運動学習理論を実現させるための手法
  • 人数やコートサイズ、ゴール方式などに制約を設け練習環境に適応することで運動学習・スキル習得を引き出す
  • 制約主導アプローチの原則を沿いながら1から練習環境を作るのは難しい
  • まずはディファレンシャル・ラーニングや既存のトレーニングに制約主導化していく
  • サッカーに限らずあらゆるスポーツや仕事のスキル習得にも適用可能な理論
ツイックラー
ツイックラー

目指すところは指導やアドバイスなく練習環境だけでスキル習得ができるようにデザインすること。常に現状に満足せず改善していくことが大事。enjoy football!!

選手が育つかかわり方や声のかけ方を参考にするには下記の本がおすすめです。

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